誰もボクを見ていない 3

2021年03月05日

ノンフィクション書籍
『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』(山寺香著 ポプラ社刊 2017)
の感想の続き最後の記事です。

以下、引用部分は17歳少年の思いです。

さて、ここまでつらつらと考えてきて、大問題が立ち上がります。
少年と共通する部分が多く、勝手な推測ではありますが共感理解する点がとても多いのです。

でも、
私は、犯罪を犯していないのです。
よく考えると、虐待を受けても逆境に遭っても犯罪を犯していない人は大勢います。

この違いは何なんだ?! と考えます。新たな大問題です。

私の両親は、世間の権威やルールを軽んじていました。
そして、我流でやっていくのが好きな人たちなんです。

私も、幼い頃はその流儀に従っていましたが、学校に行き出すと、それはまずいことに気づきます。
どちらかというと、うちの家がおかしい。親が常識知らずだ。ということに。

そのため、
中学に上がる頃には、親と距離を置きだしたのでした。
全幅の信頼を置かなくなったというか、自分と関わりのあるフツーの大人としてみるようになったというか。
その頃から、親には丁寧語で話しています。
親にですます調で話す私の様子に、びっくりした級友がいました。

親の言う通りにやってたらいかん!
との思いから、
物心ついたときには、
犯罪だけはやらない!
そう決心していました。

逆に言うと、
そう強く決心せねば暴力犯罪に手を染めそうだったからでしょうね。

少年の言葉を借りれば、
「流れに逆らわないと手遅れになりかねない」
と直観的に思ったのでしょう。

お陰で現在まで、
親を親とも思わないという心の痛みは残りつつも、なんとか手遅れにならずにすんでいます。

少年の言葉が胸に残ります。

でも誰も教えてくれない。危ないから、と。誰も見ていない。p192


誰も、
少年がそこまで追い込まれていることに気づけなかった。
まさに、
犯罪を行おうとしている姿を、
高層ビルから飛び降りねばならないような状況になって怯えている孤独な少年の姿を、
誰も見ていなかった。見ることができていなかった。

だから、
誰も教えてくれなかった。少年がマズい状況にいることを。
それはマズいよって。

そして、
どうやったらその状況から脱出できるかを。
誰をまたはどの機関を頼ればいいかを。

そうなんです。止めてくれないんです。親は。
ガイドなんかしてくれない。
期待ばかりして、要求ばかりして、結果の批判ばかりして、子どもをバカにするばかりで。

だから自分で自分を強く縛り付ける。
立派であることに命をかける。

だからでしょう。
自分が配慮のないこと人様に迷惑をかけるようなことをした記憶が自分を繰り返し繰り返し厳しく責めます。
今では大分軽減したとはいえ、心が疲れているときはフラッシュバックに悩まされます。

とはいえ、
この決心だけで、犯罪を犯さなかったというのは、言い過ぎのように思えます。
仮にもし、少年の母親が自分の母親であったらと想定したら、もはや自信はありません。

私の両親は、世間は軽蔑していましたが、悪いことはしない。という人並みの良識はありました。

法を守るとか。金を稼ぐには働くとか。も。

親特有の奇妙な寛容さのために相当ずれていたとはいえ、親の認識はぎりぎり常識の範疇であったと言えるでしょうか。

犯罪をそそのかすこともないし、犯罪しないことを責めることもしない。悪いことをしたら咎める。
こういう普通常識は持ち合わせていました。

それですら、ひどい虐待・逆境だったのです。
いわんや少年の環境をやです。

人は環境の影響を大きく受けます。
非力な子どもであればなおさらです。

私の親レベルの常識を持ち合わせていれば、
主人公は罪を犯さなかったかもしれません。

私の親が主人公の母親だったら私は罪を犯していたかもしれません。

結果が、環境次第の面は拭えません。

とはいえ、
結果を左右する要件としては、

やはり子どもの自力に頼る部分は相当大きいのが現状です。

非力な子どもにできることはとても限られているけど、
流れにまかせるだけじゃダメになってしまうから。

チャンスを逃さず流れに逆らう。
流れに上手に棹さして。
したたかに。
自分の望みをそれなりに叶えて。
そこは厚かましく。

隙あらば逃げ出す心構えで。
安全第一としながら少しでも自分の利益になるよう環境に働きかけて。

負ける戦いはせず。
今は負けを受け入れ。
隙あらば勝ち逃げする覚悟で。

自分の利益になる環境を探し出し。
信頼できる人に助けを発し。
時が来るのを待ち。
それまで備えておく。

自力を蓄えておく。
知識を蓄えておく。
体力をつけておく。
味方を確保しておく。

いろいろやりながらしのぐのです。

その時が来たときに、チャンスを逃さないように。

高層ビルから飛び降りることを強要されたときは、もう怖いものはないのだから吹っ切って逃げ出して助けを求めるように。

この項終わり


タグ :犯罪虐待

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