「断らない相談支援」が「断れない相談支援」となってしまっているかもしれない話
2020年12月12日
しばらく、専門的でお固い内容がつづきます。
今回も、社会福祉とかに関わる相当マニアックな長文。
厚生労働省が「断らない相談支援」という国の方針を打ち出しました。
厚労省サイトのページ
"「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会(地域共生社会推進検討会)」の最終とりまとめを公表します"
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000213332_00020.html
下段の概要・本文に図説があります。
10年以上前から希求されているいわゆるワンストップ相談窓口を本格的に制度として実施するようです。
※地域包括支援センターや子ども・若者総合相談センターなどがワンストップを標榜
これまでの対人サービスは、
専門分化と言って、よりよいサービスを提供するために、相談窓口は相談を受ける側の専門性によって、細かく分けられてきました。
介護問題は介護に
医療は医療に
国民年金は年金に
企業年金は企業年金窓口に
国保は国保窓口に
困窮は困窮窓口に
就労はハローワークに
若者の就労はサポステなどに
ひきこもりはひきこもり窓口に
不登校は不登校専門窓口に
なんて感じで。
その方が、利用者の利益に叶うとされてきたからです。
この仕組みの難点として、利用者はあっちいったりこっちいったりまたもどってきたりと自分が抱える問題1つのことについてすごい労力がいります。
つまり、利用者は1ヶ所にストップしておれない。
それでも、
利用者は、自分のために辛抱強くあっちに行ったりこっちに行ったりして問題解決してきました。
ところが、
最近は、利用者の困難が複雑多岐にわたるようになってきたようなのです。
あれもこれもが絡み合って困難状況になっている。
だから、
どこにどう相談していいのかが分からない。
自分に必要なのは、医療なのか福祉なのか介護なのが弁護士なのか?
それとも自分はただ話を聴いて欲しいだけなのか???
きっと、
今までもそうだったのでしょうが、こういう状況が最近顕著になってきたようなんです。
これまでは、
ご近所や知り合いにカオス状態の問題を世間話という形で話をすることで、少し問題の整理ができて、適切な窓口にアクセスできるようになっていったのでしょう。
相互信頼(友好)関係が強かったからでしょうね。
地域のこんな機能(地域コミュニティや地縁血縁のサポート≒インフォーマルサポート)が薄れてきたので、
代わりに、公的なサポート(フォーマルなサポート)での問題整理が希求されるようになったのでしょう。
※ちなみに、国の方針では、断らない相談支援と並行して、地域づくり支援もやることになっています。
利用者にとっては、なんかよく分からない困りごとができたらとりあえず相談に行ける窓口があればこれほど助かることはありません。
なにかあったときの相談窓口としては、
昔は、村長とかお寺とか神社や教会が(一次)相談窓口機能を果たしていたのかもしれませんが、
それが今では、
専門分化した相談窓口に直接アクセスするようになったので、相談したい人はどの窓口に行っていいのか悩んでしまいます。
それでもなんとか自分の複雑化した困りごとに、
とりあえず当たりをつけて相談に行ったら、うちじゃないと言われて別の所を紹介されて、
行ってみたらうちでもないと言われてといわゆるたらい回しにあうことはよくあります。
結局、困難は解消されず。むしろ悪化する。
これも、わりとよくあります。
こんなことを防ぐためでしょう。
ワンストップ。断らない相談支援は。
医療も、かかりつけ医やかかりつけ薬局が推奨されていますが、これも同様の発想からでしょう。
利用者にはとっても便利な発想です。
ところが!
相談を受ける側にとっては無理難題なんです。
一言でいうと、
あれもこれも相談を受けるなんてできません。
そんな能力ありません。
介護も医療も教育も高齢者も若年層も乳幼児も経済的なことも法律も不登校もひきこもりも育児も対応できるなんて現実的にあり得ません。
人間の能力を甚だしく超過しています。
私聞風坊もワンストップに関わっていたので知っています。
現場を知っている人は、以下のような疑問を持ちます。
現在ある対人支援サービスを一つの建物、窓口で対処するとしたら?
何百人の専門職員を確保していなければならないよね。
場所はあるの?
体育館くらい広くないと無理じゃない?
賃料高くない?
それだけの予算あるのかしら?
専門職確保の人件費だけでも相当な額になるし、賄えないよね。
結局こうして、一ヶ所しか設置されなくなるいので逆に不便にならないかしら?
湯水のように湧き起こる疑問への解答は見つけられません。
でも、受けねばならないらしいんです。
相談を。
断わっちゃならない相談支援だから。
現場は。
明らかに専門外のことも断っちゃならない。
本来は、リファーすべき案件でも。
その方が、利用者の利益に叶うのに。
できないことは受けてはならない!
できないことは断る!
と養成課程で教育されたのに!
自分にできることを責任もってしっかりやる。
利用者の最善を最優先にする!
の信条が専門職なのに。
不得手なことをやらねばならない。
無責任の誹りを受けても。
お国の方針だから。
そんな葛藤が現場に起きているでしょう。
とうてい現行勢力で実現できる事柄とは思えません。
みんな自分の専門分野で悪戦苦闘しているのだもの。
新しい仕組み作りに割く労力はありません。
ならばと、
自ら断ることができないならばと、
相手が断るように仕向ける、
相手が「じゃ、いいですぅ」と、言ってくれるのを期待するような対応を繰り返す。
※通り一辺倒の返答ばかりのいわゆる塩対応
相談者ファーストとして、「相手が希望しないから」「相手が拒否するので」
支援者はこれ以上は立ち入れないとして支援終了。
という、相談に来た人の自己責任的な終結の仕方はよく見聞きします。
まるで、積極的に解決する気もなく相談に来た人が悪いみたいな雰囲気。
困難事例だから。の一言で解決する感じ。
医療だと治療意欲なしで片付けられるケース。
いずれにしても、
相手が愛想を尽かすような、不誠実な選択をしてしまう。
相手から断られるようにとの無意識が働くようになってしまう。
支援者がそんな風になってしまわないか。
支援機関の文化、職場風土がそうなってしまわないか?
そんな懸念を持ちます。
断らない支援の実現を強く求める人たち(特に議員さんたち)にこの点をどう考えているのか?
訊いてみたい思いを持ちます。
国の方針と現場。
理想と現実のこの大きすぎるギャップをどう埋めるか?
絵に描いたすばらしくうまい大きな夢の餅を実際に食えるようにするには?
・・・。
考えました。
「断らない支援」という名の、実のところ「断れない支援」を押しつけられている現場のために。
関係者として。
一国民として。
1つの結論が出ました。
終結の仕方を考えつけばいいのだと。
ここでは(この相談機関では)、この点について支援します。
ここまでやります。
それ以外の点は、他の専門機関の支援を受けて下さい。
とはいえ、そんな簡単に解消する困難ではないので、折々にまた相談に来て下さい。
随時支援調整しましょう。
と説明責任を果たし、利用者の納得を得て、支援を一区切り終える。
の繰り返しパターン。
初期の段階(究極初見)で終結の仕方を考えて、相談を受ける。
基本中の基本姿勢でやっていけばいいんじゃないか。
例えば、
私たちがどれほどあなたの役に立てるかは今のところはっきり申し上げることができません。
場合によっては、他機関を案内して終わりになることもあります。
とはいえ、まずはお話を詳しく聞いてから判断したいと思います。
どのようなことについてのご相談でしょうか?
・・・。
お話を伺ったところ、この点については、私どもで対処できます。
この点については、他機関の相談機関を利用になった方がより専門的な支援があるのでいいように思えます。
いかがでしょうか?
・・・。
承知しました。
それでは、支援させて頂きます。まずは、・・・。
はなから断るんじゃなくて、
はなから全部受けて抱えこむんじゃなくて。
まず、相談に来た人のニーズをピックアップして、適切な支援を受けられるように手配・案内する。
それを見届ける。または支援調整する。
一貫して結末を見すえて相談支援する。
終わり方を意識しながら支援する。
それが、断らない相談支援だ。
と考えたのでした。
※いわゆる「(ちゃんと)つなぐ支援」です。
これについては、困窮者対象のワンストップ相談窓口である自立相談支援センターについて記載がありました。参考まで。
厚労省のサイトです。
(”令和2年7月3日付け社援発0702第2号「生活困窮者自立支援制度に係る自治体事務マニュアルの改訂について」6ページの表”に明記されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000057342.html)
今回も、社会福祉とかに関わる相当マニアックな長文。
厚生労働省が「断らない相談支援」という国の方針を打ち出しました。
厚労省サイトのページ
"「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会(地域共生社会推進検討会)」の最終とりまとめを公表します"
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000213332_00020.html
下段の概要・本文に図説があります。
10年以上前から希求されているいわゆるワンストップ相談窓口を本格的に制度として実施するようです。
※地域包括支援センターや子ども・若者総合相談センターなどがワンストップを標榜
これまでの対人サービスは、
専門分化と言って、よりよいサービスを提供するために、相談窓口は相談を受ける側の専門性によって、細かく分けられてきました。
介護問題は介護に
医療は医療に
国民年金は年金に
企業年金は企業年金窓口に
国保は国保窓口に
困窮は困窮窓口に
就労はハローワークに
若者の就労はサポステなどに
ひきこもりはひきこもり窓口に
不登校は不登校専門窓口に
なんて感じで。
その方が、利用者の利益に叶うとされてきたからです。
この仕組みの難点として、利用者はあっちいったりこっちいったりまたもどってきたりと自分が抱える問題1つのことについてすごい労力がいります。
つまり、利用者は1ヶ所にストップしておれない。
それでも、
利用者は、自分のために辛抱強くあっちに行ったりこっちに行ったりして問題解決してきました。
ところが、
最近は、利用者の困難が複雑多岐にわたるようになってきたようなのです。
あれもこれもが絡み合って困難状況になっている。
だから、
どこにどう相談していいのかが分からない。
自分に必要なのは、医療なのか福祉なのか介護なのが弁護士なのか?
それとも自分はただ話を聴いて欲しいだけなのか???
きっと、
今までもそうだったのでしょうが、こういう状況が最近顕著になってきたようなんです。
これまでは、
ご近所や知り合いにカオス状態の問題を世間話という形で話をすることで、少し問題の整理ができて、適切な窓口にアクセスできるようになっていったのでしょう。
相互信頼(友好)関係が強かったからでしょうね。
地域のこんな機能(地域コミュニティや地縁血縁のサポート≒インフォーマルサポート)が薄れてきたので、
代わりに、公的なサポート(フォーマルなサポート)での問題整理が希求されるようになったのでしょう。
※ちなみに、国の方針では、断らない相談支援と並行して、地域づくり支援もやることになっています。
利用者にとっては、なんかよく分からない困りごとができたらとりあえず相談に行ける窓口があればこれほど助かることはありません。
なにかあったときの相談窓口としては、
昔は、村長とかお寺とか神社や教会が(一次)相談窓口機能を果たしていたのかもしれませんが、
それが今では、
専門分化した相談窓口に直接アクセスするようになったので、相談したい人はどの窓口に行っていいのか悩んでしまいます。
それでもなんとか自分の複雑化した困りごとに、
とりあえず当たりをつけて相談に行ったら、うちじゃないと言われて別の所を紹介されて、
行ってみたらうちでもないと言われてといわゆるたらい回しにあうことはよくあります。
結局、困難は解消されず。むしろ悪化する。
これも、わりとよくあります。
こんなことを防ぐためでしょう。
ワンストップ。断らない相談支援は。
医療も、かかりつけ医やかかりつけ薬局が推奨されていますが、これも同様の発想からでしょう。
利用者にはとっても便利な発想です。
ところが!
相談を受ける側にとっては無理難題なんです。
一言でいうと、
あれもこれも相談を受けるなんてできません。
そんな能力ありません。
介護も医療も教育も高齢者も若年層も乳幼児も経済的なことも法律も不登校もひきこもりも育児も対応できるなんて現実的にあり得ません。
人間の能力を甚だしく超過しています。
私聞風坊もワンストップに関わっていたので知っています。
現場を知っている人は、以下のような疑問を持ちます。
現在ある対人支援サービスを一つの建物、窓口で対処するとしたら?
何百人の専門職員を確保していなければならないよね。
場所はあるの?
体育館くらい広くないと無理じゃない?
賃料高くない?
それだけの予算あるのかしら?
専門職確保の人件費だけでも相当な額になるし、賄えないよね。
結局こうして、一ヶ所しか設置されなくなるいので逆に不便にならないかしら?
湯水のように湧き起こる疑問への解答は見つけられません。
でも、受けねばならないらしいんです。
相談を。
断わっちゃならない相談支援だから。
現場は。
明らかに専門外のことも断っちゃならない。
本来は、リファーすべき案件でも。
その方が、利用者の利益に叶うのに。
できないことは受けてはならない!
できないことは断る!
と養成課程で教育されたのに!
自分にできることを責任もってしっかりやる。
利用者の最善を最優先にする!
の信条が専門職なのに。
不得手なことをやらねばならない。
無責任の誹りを受けても。
お国の方針だから。
そんな葛藤が現場に起きているでしょう。
とうてい現行勢力で実現できる事柄とは思えません。
みんな自分の専門分野で悪戦苦闘しているのだもの。
新しい仕組み作りに割く労力はありません。
ならばと、
自ら断ることができないならばと、
相手が断るように仕向ける、
相手が「じゃ、いいですぅ」と、言ってくれるのを期待するような対応を繰り返す。
※通り一辺倒の返答ばかりのいわゆる塩対応
相談者ファーストとして、「相手が希望しないから」「相手が拒否するので」
支援者はこれ以上は立ち入れないとして支援終了。
という、相談に来た人の自己責任的な終結の仕方はよく見聞きします。
まるで、積極的に解決する気もなく相談に来た人が悪いみたいな雰囲気。
困難事例だから。の一言で解決する感じ。
医療だと治療意欲なしで片付けられるケース。
いずれにしても、
相手が愛想を尽かすような、不誠実な選択をしてしまう。
相手から断られるようにとの無意識が働くようになってしまう。
支援者がそんな風になってしまわないか。
支援機関の文化、職場風土がそうなってしまわないか?
そんな懸念を持ちます。
断らない支援の実現を強く求める人たち(特に議員さんたち)にこの点をどう考えているのか?
訊いてみたい思いを持ちます。
国の方針と現場。
理想と現実のこの大きすぎるギャップをどう埋めるか?
絵に描いたすばらしくうまい大きな夢の餅を実際に食えるようにするには?
・・・。
考えました。
「断らない支援」という名の、実のところ「断れない支援」を押しつけられている現場のために。
関係者として。
一国民として。
1つの結論が出ました。
終結の仕方を考えつけばいいのだと。
ここでは(この相談機関では)、この点について支援します。
ここまでやります。
それ以外の点は、他の専門機関の支援を受けて下さい。
とはいえ、そんな簡単に解消する困難ではないので、折々にまた相談に来て下さい。
随時支援調整しましょう。
と説明責任を果たし、利用者の納得を得て、支援を一区切り終える。
の繰り返しパターン。
初期の段階(究極初見)で終結の仕方を考えて、相談を受ける。
基本中の基本姿勢でやっていけばいいんじゃないか。
例えば、
私たちがどれほどあなたの役に立てるかは今のところはっきり申し上げることができません。
場合によっては、他機関を案内して終わりになることもあります。
とはいえ、まずはお話を詳しく聞いてから判断したいと思います。
どのようなことについてのご相談でしょうか?
・・・。
お話を伺ったところ、この点については、私どもで対処できます。
この点については、他機関の相談機関を利用になった方がより専門的な支援があるのでいいように思えます。
いかがでしょうか?
・・・。
承知しました。
それでは、支援させて頂きます。まずは、・・・。
はなから断るんじゃなくて、
はなから全部受けて抱えこむんじゃなくて。
まず、相談に来た人のニーズをピックアップして、適切な支援を受けられるように手配・案内する。
それを見届ける。または支援調整する。
一貫して結末を見すえて相談支援する。
終わり方を意識しながら支援する。
それが、断らない相談支援だ。
と考えたのでした。
※いわゆる「(ちゃんと)つなぐ支援」です。
これについては、困窮者対象のワンストップ相談窓口である自立相談支援センターについて記載がありました。参考まで。
厚労省のサイトです。
(”令和2年7月3日付け社援発0702第2号「生活困窮者自立支援制度に係る自治体事務マニュアルの改訂について」6ページの表”に明記されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000057342.html)
Posted by 聞風坊 at 06:00│Comments(0)
│社会のこと
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